家を出た。
門を開き、閉じて、道に出た。
今となっては、どこへ行こうとしていたか、思い出せない。
なぜなら、家を出て、数歩も行かないうちに、
見知らぬ街に、迷い込んでいたらからだ。
道は、うねうねと曲がり、行き止まりが多かった。
家々は、それぞれ顔をもっており、
車は、動物のようだった。
道には、昼間から街灯がともり、
耳とシッポのはえた人々が、
にぎやかにおしゃべりをしたり、働いたりしていた。
「やあ、どこから来たね?」
「ああ、いえ、・・・さあ、どこだったか・・・」
「まあ、どこでもいいさ」「うちに寄って行かないかね?お茶でもどうだい」
「はい、それはどうも。ありがたくいただきます」
ウサギのような格好をした男にさそわれて、
家へと導かれた。
「あら、おかえりなさい。こちらは、どちら様?」
「父さん、お帰り。お客さんを連れて来てくれたんだね」
「そうさ。今日のお客さんだ。おい、母さん、お茶の用意をしておくれ」
「はいはい、分かっていますとも」
3人のウサギの家族だ。
おや、赤ん坊も1人いるようだ。では、4人家族なんだな。
「もう1人のぼうやは、寝ているのかい?」(旦那)
「ええ、それはもう、ぐっすり」(奥さん)
「でも、さっきまで、ずっと泣いてたんだ」(息子)
お茶の準備ができた。
不思議な香りのハーブティーと、
手作りのクッキーが出た。
「どちらから、いらっしゃいましたの?」
「さあ、それが、どうにも・・・」
「この方は、細かいことは気にしないのさ」
「南の丘の方から来たんじゃないの?」
「やあ、ぼうや、そうかも知れない」
「ほらね」
部屋の中には、たくさんの花が飾ってあった。
鉢植えもいっぱい並んでいた。
「美しい花ですね」
「ええ、それはもう。これは、家内の自慢なのです」
「わたくしが、自ら開発した品種もたくさんありますわ」
「いい香りです」
「ええ、それはもう」
「母さんは、花のことで頭がいっぱいなんだ。
こないだなんか、ぼく、鉢をたおして、怒られちゃった」
「それは、いけなかったね、ぼうや」
「でも、鉢は毀れなかったんだ。」
「でも、お花が1りん、落ちたわね。かわいそうだったわ」
「ぼうや、おまえまだ、母さんにごめんなさいを言っていなかったろう」
「知らないやい」
やがて、夕暮れになった。
父さんウサギが電気をつけ、
「夕食もご一緒に、いかがかな?」
「いえいえ、そろそろ家へ帰らねば」
「帰り方は、分かりますかな?」
「それが、どうにも」
「我が家の前の通りをわたると、広場があります。
その広場に、色の違う街灯が1本だけあるはずです。
行ってみれば分かりますよ。それが見つかれば、お家へ帰れるでしょう」
「ありがとうございます。奥さん、美味しいお茶をありがとう。
ぼうや、楽しかったよ」
「またね、おじさん」
「お気をつけてお帰りなさいまし」
ウサギの家を出ると、道をわたり、広場へと入って行った。
たくさんの街灯がともっていたが、人っ子一人いなかった。
わたしは、順番に、街灯の色を確かめていった。
11番目の街灯が、青色をしていて、
バラ色の他の街灯と違っていた。
わたしは、その前に佇んだ。
やがて、青色がふわっと、ふくらんでいき
わたしは、その光の中に包まれた。
光は、しだいに広がっていき・・・
めくるめく光の氾濫に、目が眩んだわたしは、
いつの間にか、目をしっかりと、つむっていた。
わたしが、おそるおそる目を開くと、
そこは、見なれた公園だった。
わたしの家の近所の、いつもの公園だった。
方向を確かめて、わたしは歩き出した。
夕暮だというのに、
街の人々が、総出で枯葉を掃いていた。
耳とシッポがはえている気がしたが、
まあ、なんでもないのだろう。
やっとこさ、家の前に辿りつき、
門を開け、門を閉めて、
ドアの中に入った。
妻が、にこやかに出迎えてくれた。
いつものように。
「お帰りなさい、あなた」
そして、
「今日は、素敵な花を街でみつけました。
ほら、こんなにめずらしい花ですわ」
と言って、
世にもめずらしい姿と香りの花を差し出したのだった。
ウサギの奥さんがつくった花なのかどうかは、分からない。
0 件のコメント:
コメントを投稿